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企業活動の社会的責任

企業活動における社会的責任

2006年5月19日(金)、ホテルプリヴェ静岡ステーションにおいて、社団法人静岡県冷凍空調工業会主催の記念講演会が開催されました。

この講演会は、県内で冷凍空調設備業を営んでいる約200社加盟の社団法人静岡県冷凍空調工業会の社団法人化20周年を記念したものであり、当所所長弁護士大橋昭夫が「企業活動における社会的責任─CSR・コンプライアンス・地球環境対応─」と題してお話しをしました。

社団法人静岡県冷凍空調工業会は、フロン回収破壊法が施行されたことを契機 に、「守ろう地球─オゾン層保護と温暖化防止にむけて─」をメインスローガンに、業務用冷凍空調機器(エアコン、冷凍・冷蔵設備、ショーケース)のメインテナンスや機器の廃棄時に際し、第一種フロン類回収業者として冷媒フロンの完全回収に努めています。

この講演の内容は、地球環境を守ろうとする加盟各社の企業活動における社会的責任を念頭においたものでありますが、コンプライアンス体制の確立が叫ばれている折、他企業の経営者の皆様、そこで働く人々や一般市民の皆様にも参考になると思われますので、当日、配付した講演要旨を次に掲載します。

(社)静岡県冷凍空調工業会設立20周年記念講演

2006年【平成18年】5月19日【金】15:40~17:10
ホテルプリヴェ静岡ステーション
演 題 「企業活動における社会的責任
─CSR・コンプライアンス・(地球環境対応)─」
講 師 弁護士・静岡大学法科大学院教授 大橋昭夫
静岡市葵区鷹匠1丁目5番1号NEUEZEIT4階
鷹匠法律事務所
TEL 054-251-1348 FAX 054-251-5526

 

1   CSR(Corporate Social Responsibility)とは何か

CSRはわが国では一般に「企業の社会的責任」と訳されている。⇒企業は利益を追求するばかりではなく、良質な製品やサービスの提供、雇用の創出、地域経済の振興等を通じて社会に貢献すべき責務があるという考え方は特に目新しいものではなく、企業経営者が常に考えていることだと思われる。

⇒しかし、最近になって「企業の社会的責任」が強調されるのは、企業不祥事に対する世論の批判や企業側の危機感を反映している面もあるが、1990年代以降、欧米諸国において、企業を評価する視点としてCSRへの取り組みが重視されるようになり、日本企業もその対応に迫られたことによる。

⇒CSRに統一された定義があるわけではないが、一般には「企業経営に社会的公正性や環境への配慮を取り込むこと。」と理解することができる。

⇒すなわち、企業がコンプライアンス(法令遵守)は当然なこと、製品、サービスの品質の向上や安全の確保、環境の保護、労働条件の改善、人権の尊重、腐敗の防止、公正な競争、などに積極的に取り組むことによって、ステークホルダ ー(stakeholder、株主、従業員、取引先、顧客など企業と利害関係を有する者の総称、地域や社会も広い意味でのステークホルダーに含まれる。)との間に良好な関係を構築し企業価値を高め、経済発展に貢献することを意味する。(このことはEUの欧州委員会でも経済産業省の企業の社会的責任(CSR)に関する懇談会「中間報告書(案)」(平成16年7月)でも確認されている。

2  コンプライアンス(Compliance)とは何か

コンプライアンスとは一般に「法令遵守」と訳されているように、法令や各種の規制を遵守する企業の活動、あるいは、そのための企業内における体制の整備を意味する用語として理解されてきた。

⇒最近では、より積極的に法令等 の背景にある精神や価値観まで遵守し、実践していく活動として捉えられている。(「いわゆる、法令遵守はもとより、社会の構成員としての企業人、社会人として求められる価値観、倫理観によって誠実に行動すること、それを通して公正かつ適切な経営を実現し、市民社会との調和をはかり、企業を創造的に発展させていくこと」経営法友会「コンプライアンス・プログラム作成マニュアル」)

⇒今日では、コンプライアンスは、形式的な意味での「法令遵守」にとどまらず、「法令や社会規範の遵守」「誠実で公正な企業活動」あるいはそのための企業内における体制の整備を意味するものとしてCSRの重要な内容の一つとなっている。

3  コンプライアンスをめぐる誤解

(1)  コンプライアンスは収益性の要請と矛盾するのではないか。
資本主義社会における企業の使命は、企業活動を通じて獲得した利潤を株主、従業員、取引先、債権者等の利害関係者に配分し、納税や投資活動を通じて社会に還元することにある。

⇒利潤をあげることは何ら非難されないが、資本主義社会における競争は、一定のルールの下で行わなければならない。

⇒そのルールは、その時々における社会が望ましいと考える価値観、倫理観が具体化された法令(商法、証券取引法、フロン類回収破壊法等)であり、それらに違反した企業はペナルティーが課せられ、ときとして市場からの退場を求められる。
⇒コンプライアンス体制の不備が巨大な経営リスクに直結することもある。⇒消費者や取引先の信頼を失った企業は、大幅な業績の低下を免れない。⇒コンプライアンスを実践している企業にはこのようなリスクはなく、社会から評価され、信頼されることによって、長期的には、ブランド価値や企業成績の向上に結びつく。

(2) コンプライアンスは、経営資源の浪費につながるのではないか。
既存の組織や日常的な業務の中に、いかに効率的に法令遵守体制を組み込むか主要な経営課題であり、日常的なチェック体制が有効に機能している限り、それ程多くの経営資源を注ぎ込む必要はない。

(3)  コンプライアンスとは取締役にとっての安全弁にすぎないのではないか。
実効性のある内部統制システムが存在すれば、万一、それにもかかわらず、 社内で違法や不正が行われ、企業が損害を被ったとしても責任追及を受けるリスクは減少する。

4  コンプライアンス重視の社会的背景

(1) 企業の不祥事を契機としてコンプライアンス体制の整備が強調された。
①   アメリカ
エンロン事件(2001年)、ワールドコム事件(2002年)

②  日 本(2000年以降)
2000年
6月 乳製品による集団食中毒事件(雪印乳業)
7月 リコール隠し、クレーム隠し問題発覚(三菱自動車工業)
9月 大和銀行代表訴訟事件判決

2002年
2月 BSE対策事業で輸入肉を国産と偽装して申請(雪印食品)
7月 国後島の発電施設建設に絡んで不正入札(三井物産)
8月 BSE対策事業で輸入肉を国産と偽装して申請(日本ハム)
原子力発電所の自主点検で虚偽報告(東京電力)
11月 総会屋に対する利益供与事件(日本信販)
12月 盗聴事件で会長が逮捕(武富士)

2003年
3月 総会屋に対する利益供与事件(西武鉄道)
5月 車輪脱落事故を契機に大型車の欠陥隠し問題が発覚(三菱ふそう)
10月 旧役員による粉飾決算や不正な裏金捻出等を公表(カネボウ)
11月 不適切な情報開示があったとして上場廃止(西武鉄道)

(2) コンプライアンスの必要性
単なる標語としての「法令遵守」ではなく、名実ともに備った真のコンプライアンスの必要性を企業が認識し始めた。

5  コンプライアンスを外部と内部から担保するための法律の制定

(1)  アメリカにおける2002年のサーベインズ・オクスリー法(企業改革法、 SOX法)の成立

⇒会計監査人が監査と同時にコンサルティング業務等の非監査サービスを提供することを禁止し、財務報告を含むすべての証券取引委員会への定期報告資料についてCEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)の宣誓を要求し、罰則も大幅に強化する(最長20年の懲役刑)など、経営者や会計監査人等にとって非常に厳しい内容となっている。

(2) 日本の公益通報者保護法の制定

① 日本では2004年6月18日に内部告発を保護し、内部告発をした労働者に解雇等の不利益処分を禁ずる「公益通報者保護法」が制定され、2006年4月1日から施行されている。

② 企業や組織の内部で公益に係る違法行為や不当あるいは不正な行為が行われていることを、内部にいる人が、企業や組織のトップ、あるいは行政機関、マスコミや消費者団体などの外部へ通報することを広く「公益通報」という。「内部告発」という言葉の方がわかりやすい。

③ 公益通報により2000年7月、三菱自動車工業のクレーム情報隠し、リコール隠しが発覚、2001年12月、東京女子医大の心臓手術ミスを隠す為のカのカルテの改ざんが発覚、2002年2月、雪印食品の在庫輸入肉を国産肉を偽装して国に買いあげさせたことについて、詐欺が発覚。

④ 公益通報は日本の社会の透明性を高め、公正な社会を実現する為に不可欠な制度といわれ、CSRとコンプライアンスと表裏一体。

⑤ 2002年6月、消費者保護基本法の改正が審議される中で、新たな消費者政策の実効性確保の制度として、その制定が審議されることになった。

⑥ 国民生活審議会の審議では、消費者側と事業者側との意見が対立し、2004年3月に閣議決定された公益通報者保護法案では、保護の対象や要件が限定された。

⑦ 企業は今後、公益通報者保護法の存在にも注目していく必要がある。

(3)  独占禁止法の改正
2005年、独占禁止法が改正され、2006年1月1日から施行されている。主な改正点は次のとおりである。

① 刑事罰が引き上げられ、公正取引委員会に犯則調査権限が導入され、悪質かつ重大なカルテル、談合行為に対しては、刑事告発をもって対処しようという姿勢が鮮明になった。

② 独禁法違反行為を行った場合の行政命令である排除措置命令に違反した法人に対する罰金額の上限が300万円から3億円に引き上げられた。

③ 課徴金納付命令などを送達することができる範囲が外国会社にまで広げられたことで、国際カルテルにも有効に対処できるようになった。

④ 課徴金の算定率が6パーセントから原則10パーセントに引き上げられ、 また、繰り返し違反行為を行った事業者には、15パーセントが適用されることになった。

⑤ 最初にカルテル、入札談合などの独禁法違反事実を公正取引委員会に報告した事業者については課徴金の全額免除、2番目に報告した事業者は、課徴金の50パーセント減額、3番目に報告した事業者は、課徴金の30パーセント減額とする課徴金減免制度(リニーエンシー)が導入され、カルテル、入札談合についての真相解明が容易になった。

⑥ いわゆる官製談合防止法が施行され、発注官庁の担当者が落札予定価格をもらしたり、談合を仕切るなどの官製談合行為が行われた場合には、公正取引委員会は、その是正を当該発注官庁に要求し、発注官庁も所要の措置を講ずることになった。

(4)  新会社法(2006年5月1日施行)と内部統制システム
① 会社法362条4項6号は、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を求めている。(取締役会設置会社)

② 会社法416条1項1号は、「執行役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を求めている。(委員会設置会社)

③ 会社法348条3項4号は、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(取締役設置会社以外)

6  地球環境対応のCSR

(1) 公害、生活、都市型環境問題
地球環境問題と社会の関心が推移するにつれて、企業は環境問題の加害者から、解決方法への提案者と役割をシフトさせつつある。

(2) 現在では、よりグローバルに、より長期的視点から、地球環境と経済、社会の関係を考えることが常識となっている。

(3) 持続可能な発展をめざし、予防的アプローチによって、環境問題に対処すべきだという方向性が確立されつつある。こうして企業では環境問題の未然防止をめざし、事業所や製品において環境に配慮することが求められるようになった。

(4) 静岡県冷凍空調工業会とその所属会社の「オゾン層保護と温暖化防止にむ けて」の取り組みや、冷媒フロンの回収も企業の社会的責任の問題として、それを完遂することは、社会的に大きな意義がある。

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